good night dear

sleep like a baby

20180914/BLESS THIS MESS@池袋EDGE

はじめに

ザ・ファブル(1) (ヤングマガジンコミックス) いきなり興味ゼロなおはなしで申し訳ないのですが、このところのわたしは、ちょうど年に何度かある「殺し屋に憧れる時期」に差し掛かっていました。良い目をしている、と言われたい時期に差し掛かっていました。それで南勝久せんせいの『ザ・ファブル』という銃撃漫画を開きながら、(まず腕をシュッてして、銃をバンッてして……)とイメージトレーニングに励んでいたのです。

ブレメス解散のお知らせが飛び込んできたのは、そんなある夜のことでした。

えっ……。えっ、どうして?
自分が立っていた場所が、足場からいっきに崩れるような喪失感。わたしは完全に気が動転してしまい、お世話になっている方(※幻覚ではない)へ銃口を向けるゴルゴ13のスタンプを送るなどしてしまいました。

殺害予告めいた物騒なスタンプがとつぜん届くなんて、受け取ったほうはたまったものじゃないですよね。みんなが安心してラインのやり取りができるように、インターネッツ警察のほうでぜひ取り締まるべきだとおもっています。まっさきにわたしが網走刑務所へ送られますが、そこは痛み分けなのです。

というわけで、ここからライブの感想です。

ブレメスの感想

Hymn

www.youtube.com 時刻は18時30分頃。フロアの照明が落とされ、それまで床に座っておしゃべりをしていたお客さんたちが一斉に立ち上がりました。しかしこの日はいつもと様子が違います。普段ならアップテンポなSEが鳴り響くところが、鍵盤の音色がおごそかに響きわたる『Hymn』に変わっているのです。

Elegy of Fate

こうべを垂れて祈りを捧げたくなるような空気に包まれた会場には、誰ひとりとして歓声をあげる者はありません。ライトとスモークとで薄っすらと白くけぶるステージに目を凝らすと、その中央にはなぜか既に柳さん(Vo.)が立っており、スタンドマイクに両手を重ねています。

「わかり合えたはずなのに、離れてしまった」

丁寧に紡がれた歌声が、織姫と彦星を連想させる珠玉のバラード『Elegy of Fate』だと気付き、わたしは半ば弾かれるように鼻をすすってしまいました。去年の7月7日に会場限定盤として販売され、その後フルアルバムにも収録されたものの、セットリストに入る事はなかったこの曲。

それをまさか、対バンのライブで聴けるなんて。楽しい雰囲気に水を差さぬよう泣くまいとさんざん誓って臨んだのに、音色のあまりの美しさに、なんともファン泣かせな幕開けに、一瞬で胸が詰まってしまいました。

Elegy of Fate

Elegy of Fate

  • Bless This Mess
  • ロック
  • ¥200
柳さんは普段の二割増しに甘い歌声で「一番好きなキミだから……」と歌い上げると、続く歌詞はメロディーに乗せずに「”ありがとう”」と普段の話し声で語り掛けます。これほどまでに優しく、そして寂しい「ありがとう」をわたしは聴いた事がありません。

どうしてこんなにも良いバンドが終わってしまうんだろう。本当に解散するの?こうしてライブを観てもまだ、実感がわきませんでした。

slumber

複雑に入り乱れた感情をやり切れず、茫然としていると、サポートを務めるHakuyaさん(Dr.)、立石 恁さん(Gt.)、Regaさん(Ba.)が薄暗いステージに音もなく足を踏み入れます。やがて優しく、どこか物悲しい水音がこぽこぽと聴こえた瞬間、最前列のお客さんたちの空気がはっと揺らぐのを感じました。二曲目はまたしてもバラード、おそらくバンド最大の人気曲であろう『slumber』です。

間奏部分では上手に立つ恁さんの輪郭がライトの下に浮かび上がり、殺傷能力満点のギターソロがはじき出されます。少し歪んだ泣きの音色はまるで聴き手の”今”を代弁しているかのように思われ、またしても目頭が熱くなってしまいました。

この日の恁さんはこれまでのウェービーヘアとは異なり、顎のラインで切りそろえた前下がりのボブ。余計なものをそぎ落とした様相だからこそ、弦をかき鳴らす節ばった指先や歌詞を口ずさむ表情に、何度も目が釘付けになりました。

終盤ではHakuyaさんがゆるく波打った黒髪で顔が隠れるほどおおきく俯いて、唇を真横に引き結び、手元だけを小さく動かしてチッ、チッ、チッ……とかすかなリズムを刻みます。両脇の楽器隊陣も同様に下を向き、「悲しみ悩む事が、苦しみ悩む事でも、キミが選んだらそれでいい」と柳さんの独白めいた歌声が響きます。それが終わるか否かというとき、不意にRegaさんがドラムセットの方を肩越しに振り向き、大サビの入りに合わせておおきくベースを振り下ろしたのです。

瞬間、閃光と言わんばかりの強い光が一気にステージを明るく照らし、柳さんが会場の隅々まで歌を届けるかのように、胸の正面に掲げた両腕をゆっくりと真横へ広げていきます。そして「この眠りに沈めて……この眠りに沈めて……」と神々しいばかりの歌声を響かせるその隣では、Regaさんもまた眉根をぐっと寄せた顔つきで遠くを見据え、同じフレーズを口ずさんでいるのです。

バラード続きとあってか、この日のRegaさんはあまり前へ出てくる事はなく、派手なパフォーマンスはありませんでした。しかしだからこそ、ふとした瞬間の表情や唇の動きが、ますます胸に迫ってくるのを感じました。

悲恋蜉蝣

悲恋蜉蝣

悲恋蜉蝣

  • Bless This Mess
  • ロック
  • ¥200
三曲目は琴の演奏を取り入れた和風曲『悲恋蜉蝣』。ここまで来るともうリスナーの殆どが、今日はバラード縛りのセットリストなのだと気付いた事でしょう。わたしはこの日はじめてバンドアレンジ版?ライブ版?を聴けたのですが、楽器隊の迫力たるや……演奏の主張を抑えてしっとりと聴かせる原曲とはまったく異なる魅力に溢れていて、圧倒されてしまいました。

これから少しずつ、あのとき聴けた『悲恋蜉蝣』の記憶が薄れていくことが本当にもどかしい。決して大袈裟な言い方じゃなく、心からそう思います。Hakuyaさんがずっしりと安定感のある音を決め、そこにRegaさんが顎先でリズムを取りながら低音をうならせます(ベースラインが最高)。恁さんがどこともない宙を見詰め、ぽつぽつと唇に歌を乗せながらギターを奏でます。そうした音のひとつひとつが自分の鼓動と重なる内、ステージとフロアの境界線が取り払われて一緒くたに溶け合うような感覚をおぼえ、心地よくてたまりませんでした。

この曲を聴けたことが本当にうれしい。原曲よりずっと好きになりました。

Lunar Regret

Lunar Regret

Lunar Regret

  • Bless This Mess
  • ロック
  • ¥200
そして最後を締めくくるのは『Lunar Regret』。曲が終わる間際、柳さんはおもむろにマイクスタンドの柱部分を片手で握ると、ずるりとその場に崩れ落ち、最後は顔が隠れてしまうほど俯いてしまいました。メンバーさん達からは何ひとつ言葉の語られないまま、ステージが紗幕に覆われていきます。残されたリスナーたちはしばし面食らったような雰囲気でしたが、やがてどこからともなく拍手が沸き起こり、全曲バラードという怒涛の本編に幕が下りたのでした。

メッセージと共にストーリー性を感じられるライブでした。ブレメスの解散については、正直まだ言葉がまとまりません。個人的な事情で、来月のライブには行けるかどうかもわかりません。今日がバンドを観られる最後だったかもしれないのに、会えなくなる実感もまだありません。こうして文字に書き起こしておきながら、寂しいとかありがとうとか、はっきりとしたラベルを感情に貼れないままでいます。

でも、バンドが最後のときを迎えたなら、今日聴いた『slumber』の一節にあるように「悲しみ悩む事が、苦しみ悩む事でも、キミが選んだらそれでいい」と言えたらいいなとおもいます。

わたしがブレメスに興味を持ったのは、過去に応援していたバンドのメンバーさんたちが再結集したからです。もちろん楽曲の魅力もおおきいのですが、顔ぶれに懐かしさをおぼえたのは間違いありません。だから立ち上げメンバーの蘭丸さん(Gt.)と駁さん(Ba.)が去年脱退したとき、自分のなかではいちどBLESS THIS MESSは終わりました。誤解をおそれずに言えば、その三人の関係性、三人だからこそ生み出せるライブに惹かれていたのです。

でも恁さん(Gt.)とRegaさん(Ba.)があらたに加わり、あたらしいブレメスの魅力をもういちど確認できました。衣装や楽曲からバンド全体に流れる雰囲気まで、おふたりがバンドにもたらしたものは本当におおきいとおもいます。だから、旧体制と新体制のどちらがいいわるいということはまったくなく、わたしはいつでも「今」のブレメスがすき。この三人が織りなす瞬間がとてもすき。そんな気持ちにさせてもらったことにも、またライブへ行ってみようと思わせてくれたことにも、感謝しかありません。

もうすこし落ち着いたら、下北沢モザイク時代からのライブレポをちょこちょこ載せようとおもいます。

セットリスト

1.Elegy of Fate
2.slumber
3.悲恋蜉蝣
4.Lunar Regret

公演情報

池袋EDGE
DNL Present’s-Grotesque New Pop
LIM / 仮病 / BLESS THIS MESS / MEIDARA / DARIAN MARIAN / 他